たまゆらの秘密 ⑨ラムサの学校

70年代以降の米国では、ニューエイジ運動に関連する超科学的エネルギー現象として霊光現象が取り上げられた。これに対して日本の諸運動がレイキ・ヒーリング等を経由してどれほど直接的に影響したかは筆者の知見を越えるが、例えば吉永進一他『近現代日本の民間精神療法』(2019)等を参照されたい。
一方で、米国においては「霊光現象」は写真を媒介したものに限られなかった。
例えばニューエイジ団体RSEを主宰していたJZナイト著『White Book』や、一時同団体の影響下にあったシャーリー・マクレーン著『Dancing in the Light』等では、高級神霊のエネルギーによって出現する「多数の光球」を肉眼で感知した体験や理論が述べられており、「写真に映るもの」ではなかった。オーブ「写真」が布教手段として用いられるようになったのは早くとも90年代末、恐らくは2001~02年頃とみられる。
RSEの発行する書籍では、人体オーラに関する疑似科学的な独自理論を展開しているが、オーブ写真に関してはチャネリング情報を通じて直接示唆された教義ではなく、信奉者の手になる研究書『The Orb Project』(2007)が初出のようである。現在のRSEのウェブサイトではイベント中に撮られたオーブ写真が多数掲載されており、重要な布教手段となっていることがうかがえる。

 

他方で、米国におけるオーブ「写真」は、主に心霊趣味のサブカルチャー的対象として存在し続けた。
懐疑主義者団体サイコップのジョー・ニッケルによる本『Camera Clues』(1994)では、オーブ写真に決まった名称は当てられず「ボール」「パーティクル」「ドット」等と呼ばれており、霧状の光ムラ「ミスト」と併置されている。
これらがBOL(Balls of Lights)やオーブ(Orbs)という一種の符丁の形で呼ばれはじめるのは、同書が刊行された94年前後のことだったようである。
同年に設立された心霊愛好団体Ghost Hunder's Societyは、廃墟巡りなどの「新しいホラー趣味」を提唱した先駆け的団体の一つであり、インターネット上で見つかる最古級のオーブ写真である95年の廃病院で撮られた写真などを公開している。96年には、やはりオーブという呼称は使われていないが、ニューヨーク・タイムズ紙がオーブを含む心霊写真趣味を紹介する記事を掲載している。

 

その後90年代にかけて、これらの心霊現象は『Xファイル』に代表される怪奇ドラマや、各国の心霊ドキュメンタリー番組で盛んに取り上げられる題材となり、その関係者の中には小林信正(フジテレビ)など、ビデオ作品の制作を通じて本格的にその研究に取り組むものも現れた。他方でニッケルや大槻義彦など反オカルティズムの論陣を張る論者も多数登場し、一部ではウィルオウィスプや火の玉などの自然現象を引いた、やや中途半端な「科学的説明」も試みられた。
このような、怪奇的興味にかきたてられたメディア上の盛り上がりに対して、疑似科学スピリチュアリズムの題材としての再流行は数年遅れ、およそ2000年前後からマスメディアと相互影響を与えつつ同時並行的に展開することになった。前述のRSEはその両者に関与した典型的な集団であったといえるだろう。